IN THIS CITY

第2話 People Person

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13 Lifeless Bodies

 裏口のドアを蹴破る音が響いた。
 瞬時にアレックスの頭に数本のシナリオが浮かぶ。敵方の行動を予測したそれらを元にして、あとは直感に従って柔軟に行動をすればいい。
 勢いよく開かれたドアの向こうには人の気配はなかった。
 囮、と判断しアレックスは建物の正面の入り口に銃口を向けた。
 瞬間、彼の目が人の姿を捉える。
 銃声が2つ、重なるようにして響く。
 ジョエルの撃った弾は宙を裂いただけだったが、アレックスのそれは標的の右肩の首寄りのところを貫いた。
 激痛を訴える悲鳴が聞こえ、それは続くアレックスの銃声で声半ばにして途絶えた。
 焼却炉だ、という鋭い声が聞こえ、アレックスは裏口に向き直った。
 狙いを定めるより先にケヴィンの姿を確認する。
 同時に、彼の手元から銃声が2発届いた。
 反射的に右脇の焼却炉に身を隠せば、それに当たって道筋を変更した弾丸が左手の古タイヤを削って去っていく。
 アレックスは体の動きを止めることなく、流れるように古タイヤとは反対側の焼却炉の脇に移動すると、まずは身を屈めたまま、そこから裏口に照準を合わせた。
 銃を構える2人の男を確認すると同時に彼の手がそれぞれに向かって引き金を引く。2発目の弾丸が銃身を離れるや否や、アレックスは再び焼却炉の裏に身を隠した。
 転瞬、相手の撃った弾がすぐ側の地面の土を弾く。
 飛散した土がまだ空中にある時間内に、アレックスは膝を伸ばし姿勢を高くすると再び焼却炉の脇から銃口を裏口に向けた。
 1人の男が雑木林の中へ向かい、もう1人が戸口に残って援護をしている。
 走り去っていくのは路地裏で見かけた男だ。
 ウォレンがカイルから聞いたという『プロ』とは彼のことだろう、物置小屋と、雑木林の不規則に生えた樹木を利用し、アレックスの銃弾が届きにくいところを移動している。
 無駄に弾数を減らすことはない。
 アレックスは迷うことなく戸口に残っているデリックに向けて発砲した。
 しかしながら、角度的に確実に仕留めることはできない。
 ドアの影に隠れる相手の姿を見るや、アレックスは地を蹴ると己もまた雑木林の方向へ駆けた。
 と、前方を行くケヴィンが彼の動きを感じ取ったか足を止めると振り返った。
 危険を事前に察知し、アレックスは急激に進路を変更すると木の陰に飛び込んだ。
 方向転換の際に左足にかけられた力で、土が混ざった落ち葉が跳ねる。
 飛び込んだ先の木の枝が、ケヴィンの撃った弾で幹から千切られる。
 悪くない狙いだ、とアレックスは思った。あと少し反応が遅れていれば、こめかみを直撃していただろう。
 続く銃声は聞こえてこず、代わりに裏口の方向から足音が聞こえた。
 素早く身を起こすと、アレックスは木を軸に60度ほど弧を描いた。
 その幹の側をデリックの銃弾が通り過ぎる。
 こちらはまだ腕が甘い。
 アレックスは木から飛び出るとデリックを確認した。案の定、物置小屋を盾にとっている。
 速度を緩めることなく彼を無視する形で、アレックスはケヴィンが去っていった雑木林の中へ、曲線的に足を進めた。
 好機と思ったのだろう、デリックが数発を見舞ってきたが、距離的にも彼の腕的にも弾丸はアレックスを捉えることができない。
 走るうちに、雑木林の奥に土の山を見つける。
 次いでその付近から銃声が発せられた。
 聞きなれたその音にウォレンの位置を確認すると、アレックスは彼の視界に入るよう、南よりの木の陰に身を落ち着けた。


 橙色味を帯びてきた日の光が、枯れ木に模様付けられて地に注ぐ。
 夕暮れの明るさを帯び始めた雑木林の中に、突如、建物の方角から、この場の空気をも裂くような銃声が轟き乱れた。
 始まったか、とウォレンは太い幹の陰から顔を覗かせ、西に位置する建物の様子を伺った。
 距離的にはそう遠くはないが、林立する木々が邪魔をしているため視界はいいものとは言えない。
 アレックスと別れる前に確認した限りでは、相手方の人数は6人。その内3人は既に動かない存在となっている。
 近くに横たわっている彼らとは違い、建物内の3人はウォレンとアレックスの存在を認識しているだろう。彼らの油断は期待できない。
 ふと、視線の先に動く人影を見つける。
 彼の動きに集中し、ウォレンは銃口の向く先を固めた。
 ケヴィンが射程内に入るや、引き金を引いた。が、弾は彼の手前の細い木の枝に捕まり、それを払っただけだった。
 仕損じたがその事実に囚われることなく、ウォレンは銃口でケヴィンの姿を追う。
 走る彼の姿が樹木に差し掛かり、一瞬、消える。
 通常ならばその姿は左から右に、樹木の背後を通過するはずだった。
 しかしケヴィンは予想していた進路には現れず、樹木の左から姿を見せると銃口の狙いをウォレンに定めた。
 反射的にウォレンが幹の陰に身を隠す。
 途端、銃声が2発響き、発射された弾は彼が隠れた幹に2本の痕を残して過ぎ去っていった。
 幹に残された痕の間隔は1cm未満。
 腕のよさは認めざるを得ない。
 アレックスが苦戦したのも頷けるか、とウォレンが何気なく視線を右に移せば、その視界の端に、軽く片手を挙げる彼の姿を見つけた。
 緊張を全く感じさせない姿がいかにもアレックスらしく、ウォレンは苦笑の混じった表情を返した。
 銃声の止んだ雑木林から、人が土の上を走る音が聞こえてくる。
 アレックスとウォレンは互いに目を合わすと小さく頷き合った。
 数秒にも満たない時間だったが、意思の疎通には十分であった。
 こういう時は、毛嫌いしている似通った思考回路もありがたく感じられる。
 アレックスが体の向きを変え、彼を追ってやってきたデリックに照準を合わせようとした。が、彼は急ブレーキでもかけたかのようにその動きを中断すると、さっと木に身を隠した。瞬間、ケヴィンの元から銃声が響き、アレックスの潜む木の幹が削られた。
 その様子を目で捉えたか音で捉えたか、ウォレンは身をかがめると素早く幹から半身を出し、ケヴィンに向かって数発発砲した。
 攻撃を受け、ケヴィンの銃が鳴りを潜める。
 ウォレンの援護を予期していたか、その間にアレックスは姿勢を低く保ったまま地を駆け、途中でデリックを射程内に入れると彼の心臓と額を難なく撃ち抜き、そのまま速度を落とさず近くの木の陰に身を寄せた。
 計算していたのだろうか、その場所もまた、ウォレンの視界の範囲内だった。
 加えて先ほどよりもケヴィンとの距離が縮まっている。
 ケヴィンは気配でデリックが倒れたこと、そしてアレックスが距離を縮めてきたことを察知し、小さく舌打ちをした。
 各自の腕も侮れないが、何より連携が巧くとれている、と彼は思った。デリックが生きていて、人数面で互角であったとしても、この形勢はあまり変わらないだろう。
 ふと、ケヴィンは先ほどの発砲の際に確認したアレックスの顔を思い出した。見覚えがあると感じたのは気のせいではない、確かに路地裏で見かけた男だった。
 『その筋』の人間は一見しただけでおよそ見当が付くものだが、アレックスからは判断の指標となる雰囲気が感じられなかった。
 ただの通行人と思い、気を留めなかった数時間前の己の目に苛立ちを感じる。
 ケヴィンが眉をしかめた時、静寂を破るように、彼を基準点に11時の、つまりウォレンのいる方角から銃声が響いてきた。
 弾かれる木の幹の皮に、身をかがめる。
 と、路地裏で見かけた男が動く気配がした。
 銃声の合間を縫って11時の方角に1発発砲し、相手の攻撃が止んだところで体を反転させるとケヴィンはアレックスに向かって発砲した。だが彼の銃口の動きは一瞬遅れでアレックスの動きを捉え損ねる。
 更に距離が縮まった。
 2人を相手にするとなると、彼らからの死角を保つのも難しい。
 心の内で俗語を吐き捨て、ケヴィンは木の幹にもたれかかった。同時に、11時の方角にいるウォレンの動きに警戒の念を発した。
 暫時、張り詰めた空気が2人を結ぶ線分の間に重く停滞する。
 静寂が訪れ、雑木林の生み出す音が遠くに聞こえる。
 11時の方角に1人、2時の方角に1人。
 この数分の彼らの動きを分析し、ケヴィンは、援護をするのがウォレン、攻勢に出てくるのがアレックス、と結論付けた。
 相手の出方が分かれば、不利な状況でも対処の仕様がある。
 次なる展開を数瞬の内に脳裏にまとめ、ケヴィンは敵が動くのを待った。
 いや、動かせることが第一手と考えたか、ケヴィンはわざと、足元の枯れ木を踏んで音を生み出した。
 刹那、ウォレンのいる11時の方角から銃弾が宙を裂いてきた。
 同時にケヴィンは予想していた相手の動きが現実になるのを感じた。
 数発続くウォレンの援護射撃はケヴィンの注意を引きつけておくための囮。その間に、アレックスが動くはず。とすれば、攻めてくる方を仕留めるが上策。
 そう判断するとケヴィンは身をかがめて足を軸に体を回転させ、アレックスがとるであろう進路に銃口を向けた。
 が、そこに彼の姿はない。
 しまった、と思うや否や、後方に人の気配を感じた。
 拳銃を構えつつケヴィンが振り返る。
 援護側に回っていたはずのウォレンの銃口が、彼の視線の先にあった。
 それは正確にケヴィンの心臓を捉えている。
 的の小さい頭を狙うより適切な判断だ。万が一外した場合でも的が大きければ相手に損傷を与える確率が高い。
 ケヴィンが姿勢を無理に変えつつ発砲する音と、ウォレンからの銃声が重なるようにして響き、空中で衝突した。
 即死こそ避けられたものの、右胸部の上を貫かれたケヴィンがその衝撃で後方に倒れ、彼の右手から拳銃が離れる。
 激痛が走り、息が詰まりながらも受身を取り、その反動を利用して体を回転させると、ケヴィンは落ちた拳銃に左手を伸ばした。
 彼の手が目標物に届く前に、距離を縮めてきたウォレンがそれを蹴り払う。
 硝煙を薄く吐く拳銃は、摩擦の大きい土の上を滑り、転がっていた小石に当たって少しだけ跳ねると動きを止めた。
 その様子を目で追うことなく、ケヴィンは空しく空を切った左手をそのまま地面に下ろすとそれを利用して力を入れ、上体を起こし、身体を木の根にもたれかけさせた。
 咳き込めば、肺からの血が喉を通って口の中に鉄の味をもたらす。
 異常な呼吸音を耳に、長く持たないであろう身体から力を抜いた。
 口元に苦笑が現れる。
 呼吸のたびに右半身を裂く傷口の痛みは、既に首筋から顎、また後頭部にかけての神経をも侵していた。
 やがてくる死の雰囲気を感じつつ、顔を上げ、ケヴィンは己に致命傷を負わせた人物を見上げる。
 若い、と、見たそのままの印象を受けながら、ケヴィンは血が詰まらないよう注意し、ゆっくりと深く息を吸った。
 もっとも、肺に損傷をきたしているため、十分な呼吸はできない。
 しかし、左腕はまだ動く。
 所持しているナイフさえ手に取ることができれば、自分を撃った相手にもそれなりの怪我を負わせられるのだが……。
 重傷で動けないことは明らかだというのに、この若い男は警戒心を解かず、一寸の隙も見せていない。
 かといって訓練されたような堅苦しい雰囲気もなく、路地裏で見かけた男と同様、掴みどころのない空気を纏っている。
 どのような感情がケヴィンの中で首をもたげたのか、彼は、くくっ、と低い笑い声を立てた。
 無表情のまま、ウォレンはケヴィンに銃口を向けている。
「……いい腕だ」
 褒めるような口調でケヴィンは呟いた。かすれてはいたが、声はまだ出るらしい。
 怪訝そうな顔でもすると思いきや、ウォレンは微動だにせずに立っている。
 だが、最初の一撃の後瞬時に止めを刺さないあたりがまだ若い、とケヴィンは思った。
 彼は頭を後ろに倒し顎を上げ、ウォレンにやる視線を見上げるものから見下ろすものへと変化させた。
「何人殺してきた?」
 年齢が若ければ精神的な面での弱さが存在する。
 そこに隙を見出そうと放った言葉。
 しかし、ウォレンは表情を変えなかった。
 表情は変わらなかったが、彼の纏う空気は変わった。
 好機、とケヴィンの左手がナイフを握った瞬間、ウォレンが銃口を動かし、その行動を制した。
 立ち入る隙を塞がれ、ケヴィンが動きを止める。
「……数えているとでも?」
 最後の反撃を繰り出す機会を失った相手に、ウォレンは一言そう告げると、彼の眉間に狙いをつけ、躊躇うことなく引き金を引いた。
 この日、雑木林に響く最後の銃声と共にケヴィンの体が一瞬上下し、そのまま、動かなくなった。
 手元で発生した硝煙の匂いが、弱い風に運ばれてウォレンの頬を撫でる。
 疎むでもなくそれから顔を背け、体から力を抜くとウォレンは西の空を仰いだ。
 ずっと差し込んでいたのだろうか、眩しい光に雑木林の木々は影となり、その背後の低い雲は鮮やかな、だが淡い夕焼けの始まりを告げていた。


 地中に掘られた穴には音以外の情報は伝わってこなかった。
 触れるのも憚られるような張り詰めた空気の存在は、いつの間に薄れたのだろうか。
 状況を確認したいという思いと、顔を上げたら危険なのではという不安が葛藤を生み、リンは見える範囲で周囲の様子に意識を集中させていた。
 突如、足音もなく近寄ってきた人物がひょっこりと穴の中を覗いた。
 驚いてリンはジョンと共に穴の中を後ずさった。もっとも、後ずさる空間が余っているほど広いものでもなかったが。
「や。また会ったねぇ」
 のんびりとした挨拶をしながら、アレックスは2人を引き上げるために手を伸ばす。
 暫時躊躇していた彼らだが、まずリンが最初にその手を握り、曲がり疲れた膝を伸ばすと久しぶりに地上に立った。
 痛む傷口を押さえつつ、周囲を見回す。
 視線の高さでのこれといった変化はあまり見当たらない。しいて言えば、目の前の木の幹が抉られていることぐらいだろうか。
 しかし少しばかり視線を下げれば、ひっそりとしていた雑木林の様子はがらりと変わっていた。
 人が、地面に横たわっている。
 ただ倒れているだけではないその姿。
 左側を見れば、うつ伏せの状態のまま動かない2人の、死の瞬間の映像がリンの脳裏をかすめる。
 あの時は必死だったためか、彼らの命に起こった大きな変化を考えることはなかった、もとい、できなかった。
 だが――。
 長い瞬きをし、リンは彼らから視線を逸らした。
 改めて思い返せば、壮絶な場面を目撃したのではないだろうか。
 頭部から噴出した血、魂を失い肉塊となった人の姿。
 ふと右手を見れば、もう1人、地面に横たわっていた。
 顔は見えなくても誰かは分かる。リンが右腕を負傷させた、あの男だった。
 二度と動きそうにない彼の体の下の土は、日の光を受けて鈍い光沢を生み出していた。地面の色と同化しており分かりにくいが、恐らくそれは、彼の体から流れ出た血によってできたものだろう。
 リンの思考を遮るように、アレックスが彼の視線の路に立った。
「大丈夫か?」
 腰を少し曲げ、そう尋ねたアレックスの表情は、リンの心情を汲んでいるかのように、穏やかで、且つ優しかった。
 側を通り抜ける弱い風に促され、リンは弱く首を縦に振って答えた。
 それ以上何を言うでもなく、アレックスは軽く頷くとジョンに振り返った。
 ジョンの顔には、助かったという安堵と共に疲労の色が濃く浮き出ていた。彼にとってもまた、今日という日は長い一日だったのだろう。
 その彼に気を遣っているのか、アレックスは地面に転がる2人の死体がジョンから見えなくなるような位置に立ち、木を利用してもう1人の遺体が彼の死角に入るようにしていた。
 ふと、アレックスが視線の向く先を変え、それにつられてリンもその方向を見た。
 彼の目が、ウォレンを捉える。
 リンはその姿に、ほんの一瞬、冷たい印象を受けた。
 恐らく、2人の人間に対して引き金を引いた彼の映像がリンの脳裏に流れたからだろう。
 彼らの命を奪ったのはウォレンであり、それによってリンとジョンを救ったのもまた、彼である。
 複雑な心境を胸に、リンは黙ってその場に立っていた。
 日当たりのいい場所に寝転がっていた落ち葉が、かさかさと小さな音を立てる。
 1日は何事もなかったかのように暮れようとしていた。
「怪我は?」
 迎えがてらにアレックスが尋ねた。
「ない」
「そりゃ残念」
 悪戯な口調で言われた言葉を聞き流し、ウォレンは立ち止まるとアレックスを見た。
「あんたは?」
「俺がヘマするわけないでしょ」
「『そりゃ残念』」
 先ほどのアレックスと同じ口調でウォレンが切り返した。
 眉を上げ、軽く頷くと、アレックスは両手を少しばかり動かし、負けました、と無言で告げる。
 短いやりとりを終え、ウォレンが視線を移す。
 無事なジョンの姿を確認すると、続いて彼はリンを見た。
 瞬間、リンは心の中を読まれたような感覚を覚えた。
 別に隠すようなことではないが、彼の脈が速くなる。
 何かしらの反応があると緊張を高めたリンだったが、ウォレンの視線はすぐに彼から外れ、アレックスに戻った。
 その後暫らく、アレックスとウォレンの間で会話がなされていたが、小声でもなかったそれはリンの耳には届かなかった。
 焦点をどこに合わすでもなく、ぼうっとした頭の中。リンの心は、助かった己の命を手放しで喜べるような状態ではなかった。
 人が死んだ。
 その事実が重くのしかかる。
 様々な感情を交えた思考がリンの中を渦まいていた時、
「ぼんやりさん」
 と、声がかかった。
 はっとして顔を上げれば、ジョンを促しながら雑木林を抜けようとしているアレックスと、彼らの先を行くウォレンの姿が目に映る。
「歩いて街に戻りたいとか?」
 物好きだねぇ、とアレックスは呟くとリンに背を向けた。
 彼に続くジョンがリンを振り返る。
 足を進めがてらに、置いていくのか、と尋ねるジョンの声が聞こえ、それに対して、彼がそうしてほしいと言うならね、とアレックスが答えた。
 その後も話は交わされ、不安そうなジョンの口調とのんびりしたアレックスの声が徐々に小さくなっていった。
 脳から発せられた指令に遅れること数秒、リンはようやく彼らを追って足を動かし始めた。
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